この人は素晴らしい、と感じる候補者に出会うと、企業はその人の獲得のためにさまざまな側面から魅力を伝え、入社してもらおうと努力します。しかしながら、そんな最高の人材は、すでに複数の企業からオファーを受けている、という状況も珍しくはありません。そんな「引く手数多」な候補者を、自分の会社に引き寄せるには、自分の会社を選んでもらうにはどうしたら良いのでしょう?
解決方法はいくつかあります。一つは、採用プロセスが最初から候補者にとって明確である、というものです。候補者は、採用までにどんな手順があり、どれくらい時間がかかり、何回面接があり、誰と会うのかを事前に知っているべきなのです。採用プロセス自体も、長すぎてはいけません。面接の回数で言えば、3、4回がスタンダードでまとまっている印象があります。部長クラスでもないのに5回、6回と予定されていない面接があると、「もしかして自分を採用することに対して、この会社は納得できてないんじゃないか?」「採用プロセス自体が一貫していない、意思疎通や情報共有が難しい会社なんじゃないか?」といった印象を与えることになります。
最高の候補者に最速でオファーを出すため、面接の回数を2回としている企業も存在します。しかし、ハイクラスなポジションのための採用となると自然と面接回数も増えますので、多くても4回程度に抑えるのがベストでしょう。どちらにせよ、事前に知らせておくことで、混乱を避け、候補者もきちんと自分の会社の採用に向き合ってくれるようになります。
次は単純ですが、多くの企業が忘れがちなものなので注意してください。面接が終わったら、きちんと面接官同士で情報共有を行うことです。これを怠ると、場合によっては似たような質問を候補者は何度も答える必要が出てきます。「これ、前も話しましたよね?」となっては、採用プロセスのお粗末さが浮き彫りになってしまいますし、せっかく時間をとって面接をしているのに、同じ内容を繰り返していたのでは大きな機会損失です。しっかり情報共有を行い、それまでの面接で得られた話をもとに質問をすれば、企業のその仕事に対する真摯さと、最高の人材を採用したいという熱意が伝わるはずです。
そして最後に気をつけるべきは、面接官が一方的に質問するような展開を避けるということです。特に面接の最初、面接官や採用担当者が自分の会社や今回のポジションについて紹介や説明をする時間は、もちろん重要です。しかしそればかりをして候補者の話す時間を消費したり、それに気付かず面接が終わってから「候補者のことあんまりわからなかったな」と振り返るのは、ちょっとおかしな話ですよね。なので、質問はしつつも、「相手の話を聞く」ことを意識して面接をすることを忘れてはいけません。
そうして最終面接も終え、素晴らしい候補者と出会い、オファーを出したとします。それでも良い候補者というのは、その時点で二つ三つオファーをもらっている可能性もあります。「他にもオファーを頂いているので一週間ほど時間をください」と言われては、向こうに選択の主導権を渡してしまうことになります。そこで企業ができるのが、面談をもう一つ設ける、ということです。注意すべきは、これは面接ではない、ということです。最初に「採用プロセスは明確にしておくべき」とは書きましたが、最後に注釈で「面談を設けることがあります」と記しておいても良いかもしれません。この面談の目的は、「候補者に一番合理的な判断をしてもらう」ことにあります。
面談の内容は面接と比較して少しカジュアルでリラックスした雰囲気があることです。企業によってやり方は異なりますが、例えば半日ほどの職場見学をして社内の人や将来のチームメイトと話をして、働くイメージを持ってもらったり、会社の代表取締役と電話やオンライン面談を設けて候補者の入社を心待ちにしている旨を伝えるなどしています。ランチやディナーなどをセッティングし、一緒に働く人の人となりを知ってもらうのも良い方法です。重要なのは、候補者を重要と感じている、大事にしたいと思っている、ということを伝えることです。個人の時間を割いてまで会ってくれるというのは、かなり気に入られている証拠であり、企業を身近に感じさせてくれるはずです。