Banner Default Image

メタバースと転職の将来性

メタバースと転職の将来性

約1年前 by Reili Sweet
Mediamodifier W V 05 P T15 Y Unsplash

昨今大きな話題を呼んでいる「メタバース」という単語。Facebook社が社名をMetaに変更している様子からも分かる通り、多くの企業がメタバースの持つポテンシャルに希望を見出しています。テクノロジーが普及し、時勢の後押しもあって対面でのコミュニケーションが以前より難しくなった今、デジタルな生き方と、それを支援するメタバースの存在がどんどん不可欠になっていく……のは間違い無いですが、そもそも「メタバース」がどんなものなのか、きちんと理解し、説明できますか? 今回はメタバースについて、そしてそれが今後の採用にどう影響してくるのか、考えていきます。

まずはメタバースという単語について。メタはmetaという、元々はギリシャ語で「あとに」を意味する接頭語で、英語では「超越した」という意味を持ちます。メタフィクション(フィクションの中のフィクション)という単語としても使われていますね。このメタを、宇宙を意味するuniverseと組み合わせてできたのがメタバース(metaverse)です。超越した宇宙、という意味になりますが、本記事で指すメタバースは「インターネット上の仮想空間」のことと考えてもらって構いません。

最近台頭した単語ではありますが、概念として遡ればみんなで繋がるオンラインゲームや、オンライン上での交流を目的としたソーシャルサービス、インターネット上の掲示板から昨今のSNS、もちろんVRデバイスを利用したサービスに至るまで、その全てが「メタバース」と呼ぶことができると言えます。その中でも近年になって取り上げられ始めたのは、頭から被る形で使うVR機器が市場として盛り上がってきたからと言えるでしょう。加えて、コロナ禍における人と人の物理的な接触が難しくなり、オンラインでの活動が増えてきたこともあり、「バーチャル」というものがより身近になったことも原因として挙げられます。

ここまでは基本的な情報でしたが、せっかくなのでもう少し踏み込んで考えてみましょう。本記事で取り上げるメタバースは、インターネット上の仮想空間、と言いましたが、これはまだまだ大きな括り。先ほど述べた通り、多人数が同時に繋がれる、現実世界のようだけど現実ではないものをメタバースと呼ぶのであれば、なぜ掲示板やSNSは「メタバース」と呼ばれないのでしょうか?

その答えは、体験にあります。掲示板やSNSでは、画像や動画を投稿できても、基本的には文字での交流の世界です。声を入れたり、無料通話サービスなどで会話できても、これもメタバースとは呼びません。それはすなわち、メタバースには独自の「体験」が存在するからです。これは現実に人と人とが対面で会い、話すのと似た体験であり、大きな没入感を伴うものです。メタバースとは、インターネット上の仮想空間に、まるで入り込んだかのような没入感で他人と交流することのできる場所、のことを(少なくともmeta社を始めとしたメタバースを推進するIT企業は)指しているのです。

そして、この「体験」が、採用には大きく関わってきます。コロナ禍で対面での面接の代わりに、オンライン面接を行う企業が増えてきました。特に採用プロセスの序盤では、送られた書類を見てから、まずはオンライン面接、そこでよければ最終面接では対面で、という方法を採用している企業もあります。採用におけるメタバースは、ここに革新性が隠れています。

もちろん、ビデオ通話を用いたオンライン面談も良いものですし、電話で終わらせるより多くの情報を得ることができる素晴らしいものです。しかし、どこまでいっても相手はその場に存在しません。また、多くの場合、面接官も候補者もデバイスのモニターを見ており、カメラを見ていないので、アイコンタクトが取りづらいというのもあります。会話のタイミングがちぐはぐになってしまうのはこれが原因と言えるでしょう。ビデオ通話をしていて、気まずい沈黙が数秒流れてしまった経験があるのは、私だけではないと思います。

メタバースはこうしたバリアを解消する一助になるツールです。手が届きやすくなったとはいえ、まだまだ安価なものではありませんが、将来的にはスマートフォンのように、基本的には誰もが手を出せるくらいになってくるでしょう。そうなれば、面接はメタバース上で、などということもあり得てきます。注意すべきは、メタバース上での面接などは、ビデオ通話の延長線上にしかまだ存在しないということです。どんなに便利で革新的でも、根本にあるのはコミュニケーションの一助となるツールだということ。ですので、たとえ手が届くようになったとしても「必ず導入する」必要は、まだないと考えます。もちろんこれから新たなサービスや利便性が拡張され、ビデオ通話以上のツールとなってくる可能性もあります。その兆しを逃さないよう、注目しておくことは良いことだと断言できます。

メタバースにはもう一つメリットとして、先入観や偏見を取っ払うことができる、というものがあります。現在主流のメタバースサービスでは、参加者は仮想空間上の自分である「アバター」を作成して参加することが必須となっています。アバターはプリセットから選んだり、自分でカスタムできたりしますが、どちらの場合でも人種や性別、年齢といった偏見や差別を助長する要因をある程度取り除くことが可能です。これはカメラで実際の自分を写す必要のあるオンライン面接とは大きく異なる点です。

もちろん、誠実性がないとして「自分を見せない」ことを良しとしない考えもあるのは重々承知しています。しかし、偏見を取り除くことで、より候補者本人のスキルや経験にフォーカスした会話が可能だったり、外見に関するコメントを行なってもハラスメントになりづらいなど、利点もさまざまです。

リモートワークが活発になるこの頃、「実際に自分がその場にいなくても仕事ができる」環境が許されるのであれば、同時に「相手の本当の顔を知らなくとも仕事に支障が出るのか?」という疑問は当然ながら浮かんできます。信頼問題に繋がる、チームワークが乱れる、という考え方は、それはそれで根強いし、実際少なからずその側面があるかと思います。バーチャルアバターを纏って匿名性を高めると、もしかしたら他者を批判する言葉も出やすいかもしれませんね。

ですが、バーチャルYouTuberの出現や、それよりもさらに前からあるオンラインゲームでの協力プレイなどを見ていると、良い結果を出すのに必ずしも相手の顔を知っている必要があるとは言えないのも事実です。パフォーマンスや難易度に差はあるかもしれませんが、仕事という側面だけを見れば、結果を出すために相手の顔を知っている、というのは、実はさほど重要ではないかもしれないのです。

もちろん、ここまでの内容は全てが仮定の話で、現実にメタバース上で採用から仕事の完遂までが全部できる、とはまだ思っていません。ですがその実現に動き出している企業も少なからず存在します。メタバースを知り、その情報を見ておくことで、将来の大きな動きや変化に、即座に対応できるはずです。

もう一つおまけの話として、AR(拡張現実)の話もしておきましょう。現在はARマーカーを利用してスマートフォンのモニター上から見る現実世界に、バーチャルのデータを重ねることができるようになっています。データを表示させる場所を指定すれば、マーカーより少し不便ながらもAR表示をすることも、サービスによっては可能です。メタバースとは少し違いますが、こちらも技術が発展すれば、例えば「誰もいない会議室に面接相手の立体的な映像を投影する」「仕事相手を隣のデスクに表示する」などという使い方ができるかもしれません。空気感はメタバースと似ていますが、こちらは現実的な空間が必要になる、という点が少し違っていますね。