企業と社員の間で共有される行動・判断基準や価値観を「企業文化」と呼びます。端的に言うならば、例えば「お客様ファースト」とか「働きやすい環境づくり」とか「自分で考え、行動する力」といった、聞き馴染みが良い、仕事をする上で企業が社員に大切にしてほしいと思っていて、企業もまたそれにしたがって決定を下す成文律です。ですが、聞こえが良い言葉は実際に働いているとただの綺麗事として処理され、無視されがちです。どうしたらこの企業文化をしっかりと浸透させ、それに即して行動や判断を下せるようになるのでしょう?
企業文化を文字にするのも大切ですが、まず第一のステップとして、「新しいポスター」程度の認識から、「これは本気だぞ」としっかり伝えていく必要があります。そこで上司……特に社長や役員の側から徹底して行い続けたいのが、企業文化を声に出していく、ということです。会社の掲げた理念などを毎朝復唱させるような文化はありますが、それ以上に、上に立つ人が言葉にすることで、それをどれだけ重要視しているのか、ということを下まで伝えていく必要があります。
人は文字として視認する情報よりも、耳から聞いた音の情報の方が意識に残るものです。特にビシッと短く決まっている場合や、何度も繰り返された場合はより覚えがよくなります。学生時代、先生の授業は覚えてないけど、その人の口癖はしっかり覚えている、なんてことはありませんか? 何度も聞くというのは、それだけ記憶に強烈な印象を与えるのです。口を酸っぱくして、企業文化を声に出していきましょう。
もちろん、言うだけではなく、自分からそれに即して行動しなければ意味がないことは、もうご存知とは思いますから、強くは説明しません。
次に大事なのが、言葉にするタイミングです。挨拶のようにしていても鬱陶しがられるだけです。特に大きな組織の下の方で働く社員や、場合によってはアルバイトなどには、企業の上の方で決められた内容などどこ吹く風です。自分たちの生活を成り立たせるために仕事をしている人にとっては、企業文化よりも現場の働きやすさと賃金の多さが優先されます。効率を求めて指示に従う姿勢だけを見せる、なんてこともあります。
全員に浸透させるには、企業文化を個人の評価の中にまで落とし込まなければなりません。一筋縄ではいかないことですし、企業によっては根本的に評価方法を変える必要が出てくるかもしれません。ですが、これはそれ以上の価値があるのです。
そもそも、人が頑張らない時というのは、目標が定まっていない時、あるいは何を努力した成果として測ってくれるのかわからない時です。頑張っているな、という評価が個人の観測と肌感覚だけでは、人はやがて努力を放棄してしまいます。そこで企業文化で大事にされていることを個人の評価の中に入れてやることで、少なくとも「どうすればいいか」ということが明確になってきます。これはどんな役職であっても同じことです。
「迅速な対応」を企業文化として盛り込むのであれば、どれだけプロジェクトやセールスを素早く行えたのかを評価します。「仕事とプライベートの充実」ならば、残業時間の少なさやしっかりと仕事に取り組む姿勢、業務時間内における仕事に対する姿勢などが評価されるかもしれません。そうするとどうなるか。企業文化が合致した人材が会社に残るようになるのです。
そして最後は判断基準としての企業文化です。理解し、それに即したアクションを取れるようになったら、一人一人が企業文化に明示された内容に則って判断を下せるようにします。具体的には、仕事に迷って質問に来られたら、「企業文化を思い出してもらう」ようにするのです。お客様ファーストを掲げる企業ならば、「どうすればお客様に満足してもらえるのか」を、自分で考え行動することを良しとする企業ならば、「問題と一緒に自分で考えた解決プランを持ってきてもらう」などです。こうして仕事のベースに企業文化を敷くことで、誰もがその会社を代表するような行動ができるようになります。
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